アップライトロウは肩に悪い? 効く部位・やり方と、インピンジメント論争の実際

アップライトロウ(アップライトローとも表記されます)は、三角筋と僧帽筋を1種目でまとめて動かせるのが特徴の種目です。バーを体の前で真上に引き上げるだけなので手順自体は単純で、最初に押さえるべき点も3つしかありません。グリップは肩幅より広めに取るバーは鎖骨より上まで引き上げない12〜15回で限界が来る重量から始める。この3つです。

一方で、この種目には「肩に悪い」「やめたほうがいい」という評判がついて回ります。理由は動作の構造にあります。腕を内側にひねった状態(内旋位)のまま肩の高さより上へ挙上する種目は、他にあまりありません。

ただし、「だから危険」と言い切れるほど話は単純ではありません。 根拠としてよく持ち出される肩峰下スペースの測定研究は、実は研究どうしで結果が食い違っています。この記事では、やり方・重量・部位といった基本を先に片づけたうえで、この論争の中身を出典付きで整理します。

目次

1. アップライトロウはどこに効く?

主に効くのは三角筋(前部・中部)と僧帽筋です。バーを引き上げるときに肘を曲げるため、上腕二頭筋も関与します。

面白いのは、この配分がグリップ幅で変わるという点です。

訓練経験のある男性16名を対象に、グリップ幅を肩峰間距離(左右の肩の骨の間の幅)の50%・100%・200%の3段階に変えて筋電図を測定した研究があります。結果は次のとおりでした。

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局面有意差が出た筋傾向
引き上げ(コンセントリック)外側三角筋・後部三角筋(p<0.001)50%・100%より200%(ワイド)が高い
下ろす(エキセントリック)前部三角筋・外側三角筋・上部僧帽筋・中部僧帽筋・上腕二頭筋三角筋・僧帽筋はワイドで増加、上腕二頭筋は減少

総括すると、グリップを広くするほど三角筋・僧帽筋の活動が増え、上腕二頭筋の活動は減るという方向です。狭く持つほど「腕で引く」動作に近づく、と考えると分かりやすいかもしれません。

出典:McAllister MJ, Schilling BK, Hammond KG, Weiss LW, Farney TM.「Effect of grip width on electromyographic activity during the upright row」J Strength Cond Res, 27(1), 181–187, 2013年(PubMed PMID 22362088

この結果の読み方には条件があります。参加者16名・各条件2反復のみの短時間測定で、負荷は全グリップ幅で共通(肩幅グリップ時1RMの85%)に固定されており、グリップごとの1RMには合わせていません。「ワイドで持てば三角筋が発達する」という筋肥大の効果を示したものではなく、あくまで「同じ負荷を扱ったとき、ワイドグリップのほうが筋電位が高かった」という測定結果です。また使用器具はバーベルのみで、ダンベルやケーブルにそのまま当てはめることはできません。

なお、グリップ幅で効き方が変わる種目とそうでない種目があります。ラットプルダウンでは、広背筋の活動はグリップ幅を変えてもほとんど差が出ないという結果が複数の研究で出ています。「広く持つほど効く」を全種目に一般化しないほうが安全です。

僧帽筋メインの種目、というわけでもありません

アップライトロウは「僧帽筋の種目」として紹介されることがありますが、僧帽筋の活動量そのものは他の肩種目と比べて突出しているわけではありません。

慢性的な僧帽筋の筋痛と診断された女性労働者12名(30〜60歳)を対象に、複数の肩種目の僧帽筋活動を比較した研究では、シュラッグ102±11%MVC、ラテラルレイズ(サイドレイズ)97±6%MVC、アップライトロー85±5%MVCという順でした。

出典:Andersen LL, Kjær M, Andersen CH, Hansen PB, Zebis MK, Hansen K, Sjøgaard G.「Muscle activation during selected strength exercises in women with chronic neck muscle pain」Phys Ther, 88(6), 703–711, 2008年(PubMed PMID 18339796

この数値をそのまま持ち帰る前に、条件を確認してください。対象は肩こり・首の痛みを持つ女性労働者であり、健常なトレーニー男性に当てはめるのは推定です。 さらに、ラテラルレイズとアップライトローは3〜10kg、シュラッグは20〜30kgと種目ごとに使用重量が違うため、同一負荷での比較ではありません。著者の結論もリハビリ処方の文脈(軽い負荷でも僧帽筋は高く活動する)であって、筋肥大目的の種目選びを推奨したものではありません。

そのうえで言えるのは、「僧帽筋を使いたくないからサイドレイズにする」という選び方は成立しにくいということです。サイドレイズでも僧帽筋は高く活動しています。

2. アップライトロウの正しいやり方

バーベルを使った基本形の手順です。

  1. スタートポジション: 足を腰幅に開いて立ち、バーを順手(手のひらが体側を向く向き)で握ります。グリップ幅は肩幅より少し広め。腕を伸ばし、バーが太ももの前に触れる位置から始めます。
  2. 肘から引き上げる: 手でバーを持ち上げるのではなく、肘を天井方向へ引き上げるイメージで動かします。バーは体の前面に沿わせ、体から離さないようにします。
  3. トップポジション: 肘が肩の高さに来るあたりで止めます。バーの位置でいえば、みぞおち〜胸の高さまでが目安です。鎖骨より上まで引き上げないでください(理由は4. 注意点で詳しく扱います)。
  4. ゆっくり下ろす: 落とすように戻さず、下ろす局面を自分でコントロールします。前節の筋電図研究では、下ろす局面のほうが多くの筋で有意差が出ていました。ここを雑に扱うと、種目の半分を捨てることになります。
  5. 上体は固定: 一連の動作中、体を反らせたり、膝の反動を使ったりしません。

フォームが崩れていないかの確認ポイント

チェック項目崩れているサイン
引き上げる高さバーが鎖骨より上、あごの近くまで来ている
手首手首が強く折れ曲がり、痛みや詰まりを感じる
肘が手より下にあり、腕で引き上げている
上体引き上げに合わせて体が後ろへ反る、膝で反動をつけている
バーの軌道バーが体から離れ、前方に弧を描いている
下ろす動作下ろす局面が速く、脱力して落としている

フォームは回数を重ねるほど崩れます。セット最初の1回ではなく、最後の1〜2回でこの表を確認してください。

手首に詰まりを感じる場合は、ストレートバーではなくEZバーに替えると角度の逃げ場ができます。それでも違和感が残る場合は、ダンベルやケーブルのほうが手首の自由度が高くなります。

3. アップライトロウは何キロから?——重量・回数・頻度の決め方

3-1. 最初の1本の決め方

12〜15回でギリギリ限界が来る重量から始めてください。 具体的には、バーベルならプレートを付けずにシャフト単体から、ダンベルならサイドレイズで使っているものと同じか1段階重いものが、最初の試着候補になります。肘の曲げ伸ばしが加わるぶん、サイドレイズより少し重くても扱えるのが一般的です。

「初心者は◯kg、中級者は◯kg」といった性別・経験レベル別のkg早見表も見かけますし、実際そう言われることも多いのですが、これはトレーナーや利用者の経験則として流通しているもので、体重や性別から適正重量を割り出せる学術的な検証を経た基準ではありません。 数値そのものを否定するわけではありませんが、判断の軸にするなら次の「回数から決める」方法のほうが確実です。

3-2. 回数を先に決めて、重量を後から合わせます

RM(Repetition Maximum)とは、フォームを保ったまま挙げられる限界の回数のことです。12回で限界が来る重量を「12RM」と表現します。

アメリカスポーツ医学会(ACSM)2009年版のポジションスタンドでは、経験レベル別に次の負荷が示されています。

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経験レベル定義推奨される負荷頻度
Novice(初心者)未経験、または長期間トレーニングしていない8〜12RM週2〜3回
Intermediate(中級者)約6ヶ月の継続経験がある1〜12RMを周期的に変化させる週3〜4回
Advanced(上級者)数年の経験がある1〜12RMを周期化し、1〜6RMを重視週4〜5回

出典:American College of Sports Medicine「Progression Models in Resistance Training for Healthy Adults」Med Sci Sports Exerc, 41(3), 687–708, 2009年(PubMed PMID 19204579

これはレジスタンストレーニング全般の原則であり、アップライトロウ専用の基準ではありません。頻度もトレーニング全体に対する推奨です。

ACSMは2026年に17年ぶりの改訂版を発表しています。137件のシステマティックレビュー・3万人超のデータを統合したもので、筋肥大が目的なら対象筋あたり週約10セットを確保し、下ろす局面(エキセントリック)を重視することが有効とされました。失敗まで追い込むこと・器具の種類・複雑な期分けは、成果に一貫した影響を与えなかったと結論づけられています。種目ごとのkg基準はここでも示されていません。

出典:American College of Sports Medicine「Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults: An Overview of Reviews」Med Sci Sports Exerc, 58(4), 2026年(PMC12965823の全文

3-3. アップライトロウでは高回数側に寄せる理由

アップライトロウは、8RM前後の高重量に寄せると引き上げる高さと反動を稼ぎに行きやすい種目です。重くすると、まず「鎖骨より上まで上げてしまう」「膝で反動をつける」という形でフォームが崩れます。そして次節で扱うとおり、この種目でリスクが議論されるのは、まさにその「高く上げる」局面です。

そのため、実務上は12〜15回、多い場合は20回程度まで回数側に寄せて組まれることが一般的です。これはACSM 2009年版の原則から導いた考え方で、アップライトロウを対象に回数を比較した研究があるわけではありません。

  • 回数: 12〜15回で限界が来る重量
  • セット数: 2〜3セット。筋肥大を狙う場合、ACSM 2026年版の「筋群あたり週約10セット」はアップライトロウ単体ではなく、三角筋・僧帽筋を使う種目の合計で数えます
  • 頻度: 週2〜3回
  • 順序: ショルダープレスなど大きな多関節種目の後に置くのが一般的です

4. アップライトロウの注意点——肩のインピンジメントはどこまで本当か

ここが、この種目でいちばん情報が錯綜している部分です。先に実務的な結論を3つ置きます。

  1. 肩に痛み・違和感・肩の傷害の既往がある方は、この種目を無理に選ぶ必要はありません。 外すという選択肢を持って構いません。
  2. 行う場合は、過度な挙上を避けます。 肘が肩の高さに来るあたり(バーはみぞおち〜胸の高さ)で止め、鎖骨より上へは引き上げません。
  3. 不安があるなら、肩甲面(肩の真横ではなく、やや斜め前)でのレイズ系種目に置き換えられます。

この3点は、アップライトロウと肩峰下インピンジメントを扱った臨床総説が示している実務的な提案とほぼ同じ内容です。なお、「鎖骨より上」という具体的な高さの目安そのものは総説の文言ではなく、総説がいう「過度な挙上を避ける」という提案を、判断しやすい基準に置き換えたものです。以下では、なぜこう言えるのかを順に見ていきます。

4-1. なぜアップライトロウだけが名指しされるのか

理由は動作の構造にあります。通常、腕を頭上へ上げていく動作では、肩峰(肩甲骨の外側の出っ張り)の下を腱が通り抜けられるよう、上腕が自然に外旋します。ところがアップライトロウは、バーを握っているために上腕が内旋位に固定されたまま、肩の高さより上まで挙上するという構造になっています。この総説はそれを「異常な生体力学」と表現し、腱板の筋力低下・加齢による解剖学的変性・生まれつき狭い肩峰下スペースといった要因と組み合わさったとき、既存のインピンジメントを助長・誘発しうると論じています。

出典:Schoenfeld B, Kolber MJ, Haimes JE.「The upright row: Implications for preventing subacromial impingement」Strength and Conditioning Journal, 33(5), 25–28, 2011年(DOI

ただしこれは総説(ナラティブレビュー)であり、実際にアップライトロウをした人の傷害発生率を追跡した介入研究ではありません。 「必ずインピンジメントを起こす」という話ではなく、「機序として説明がつくので配慮しておこう」という位置づけの主張です。

肩峰下インピンジメント症候群そのものは、スポーツ活動における肩の痛みの原因の44〜65%を占めるとされる、頻度の高い傷害です(大庭有希也, Strength & Conditioning Journal Japan, 31巻4号, 2024年)。無視してよい話題ではありません。

4-2. 「内旋すると肩峰下が狭くなる」は、確定した話ではありません

上位の解説記事では「内旋位での挙上は肩峰下スペースを狭める」と説明されることがあります。しかし実際の測定データは、この説明ほど単純ではありません。

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研究測定法・対象90度挙上位での結果
Graichen 1999オープンMRI・健常者12名肩峰下腔幅は内旋7.6±2.3mm > 中間位5.4±2.3mm > 外旋4.4±2.2mm(p<0.05)。数値上は内旋時が最も広い
Kim 2014超音波・健常者34名90度外転位では内旋時の肩峰上腕距離が最大(1.259±0.039cm)
Lawrence 2020文献レビュー同じ肢位を測定しながら、「外旋で増加」「外旋で減少」「有意差なし」の3通りの結果が併存すると指摘

出典:Graichen H, Bonel H, Stammberger T, Englmeier KH, Reiser M, Eckstein F. Surg Radiol Anat, 21(1), 59–64, 1999年(PubMed PMID 10370995 )/Kim H, Kim B, Shim J, Kwon H, Jung J. J Phys Ther Sci, 26(1), 97–100, 2014年(PMC3927051の全文 )/Lawrence RL, Braman JP, Ludewig PM.「Shoulder kinematics impact subacromial proximities: a review of the literature」Braz J Phys Ther, 24(3), 219–230, 2020年(PMC7253874の全文

つまり、骨と骨の隙間という指標で見るかぎり、内旋位はむしろ広いという測定結果が複数あります。 通説と逆です。

だからといって「内旋は安全」と読むのも誤りです。同じGraichenの研究には、内旋時には棘上筋腱の最も脆弱な部分を貫通する形で、腱が肩峰の前下縁に接触するという所見が併記されています。骨のあいだが広くても、そこを通っている腱がどこに当たっているかは別問題だということです。Lawrence 2020は、測定法・挙上する面・荷重の有無・肩甲骨の動き・そもそも何を測っているか(骨間距離か、腱との近接か)の違いが結果を左右すると整理しています。

さらに、隙間の広さと痛みの関係そのものも確立していません。15研究・775名を統合したメタ解析では、安静位・45度外転・60度外転のいずれにおいても、肩峰下痛のある群とない群で肩峰上腕距離に有意差は認められませんでした。

出典:Park SW, Chen YT, Thompson L, Kjoenoe A, Juul-Kristensen B, Cavalheri V, McKenna L. Scientific Reports, 10, 20611, 2020年(PMC7693267の全文

ここまでを一文でまとめると、「内旋位だから狭くなる、だから危険」という説明は、現時点のデータでは支持も否定もされていないということになります。単一の研究を持ち出して「内旋は安全」「内旋は危険」と断定する説明を見かけたら、その根拠が3通りに分かれている領域の話だと思ってください。

4-3. 「アップライトロウ=危険種目」とも言い切れません

反対方向の断定にも根拠が足りません。ウェイトリフティング・パワーリフティング競技者(アマチュアから五輪エリートまで、15〜43歳)の肩傷害を扱った11研究のスコーピングレビューでは、肩傷害の発生率は7〜46%と研究間のばらつきが大きく、種目別(アップライトロウなど)の傷害発生率は報告されていません。 リスク要因として挙げられたのは、技術の不適切な実行、40歳以上という年齢、柔軟性不足、オーバートレーニング、挙上中の肩の脆弱な肢位、不適切なウォームアップでした。

出典:Daher M, Jabre S, Casey JC, Fares MY, Boufadel P, Lopez R, Lawand J, Mansour J, Abboud JA.「Shouldering the load: A scoping review of incidence, types, and risk factors of shoulder injuries in weight-lifting athletes」Shoulder Elbow, 17(3), 254–263, 2025年(オンライン先行2024年)(PubMed PMID 39552690

対象は競技選手であって一般のトレーニーではないため、そのまま自分に当てはめることはできません。この研究が示しているのは「アップライトロウという種目そのものが危険」という根拠ではなく、技術・年齢・柔軟性・負荷管理といった、種目を問わないリスク要因の存在です。「安全である」ことの積極的な根拠にはなりませんが、「危険と断定できない」理由の一つにはなります。

4-4. 結局、どうすればよいか

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判断材料現時点で言えること実務での対応
動作の構造内旋位のまま肩より上へ挙上するという特性は事実鎖骨より上へ引き上げない
肩峰下スペースの測定研究間で結果が割れており、安全性の根拠にも危険性の根拠にもならないこの論点で種目の可否を決めない
隙間の広さと痛みの関係メタ解析では有意な関連なし「隙間が広いフォーム探し」に労力を割かない
傷害の実データ種目単位の発生率は不明。技術・肢位・負荷が要因として挙がる重量を上げすぎない、反動を使わない
既往・現在の症状総説は肩疾患のある人に回避の選択肢を提示痛みがあるなら外す、または代替種目へ

肩の痛みや違和感が続く場合は、自己判断でトレーニングを継続せず、整形外科などの医療機関や専門家への確認が必要な場合があります。 本記事は一般的な情報提供であり、個別の症状に対する診断や治療方針を示すものではありません。

5. アップライトロウとサイドレイズはどっちがいい?

どちらが優れているかという問いではなく、担当している方向が違うので、片方だけで置き換えるのは難しいというのが答えです。

三角筋は前部・中部・後部で得意な方向が分かれています。肩の挙上における三角筋の役割を調べた研究では、前部・中部の三角筋が挙上域の大部分で正の外転モーメントアーム(腕を横に上げる方向に働く力の腕)を持つのに対し、後部三角筋は内転モーメントアームを持つ、つまり腕を横に上げる動作には機械的に不利だと報告されています。

出典:Liu J, Hughes RE, Smutz WP, Niebur G, Nan-An K. Clinical Biomechanics, 12(1), 32–38, 1997年(PubMed PMID 11415669

この違いを踏まえて2種目を並べると、次のようになります。

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アップライトロウサイドレイズ
関節の数多関節(肩+肘)単関節(肩のみ)
主なターゲット三角筋前部・中部+僧帽筋三角筋中部
上腕の向き内旋位で固定される持ち方で調整できる
扱える重量比較的重い比較的軽い
肩の高さより上引き上げないほうがよいもともと肩の高さで止める

肩幅そのものを広く見せたいのであれば、三角筋中部を単独で狙えるサイドレイズのほうが目的に直結します。 アップライトロウの強みは、三角筋と僧帽筋を1種目でまとめて扱える効率と、多関節種目として比較的重い重量を扱える点です。

なお、競技経験のあるボディビルダー男性10名を対象に上腕の回旋角度と筋活動を比較した研究では、上部僧帽筋の活動は内旋位が他の全条件より高いという結果が出ています(三角筋中部については中立位が外旋位より高く、内旋位との有意差は示されていません)。アップライトロウが僧帽筋に入りやすいのは、内旋位で挙上するという構造と整合します。

出典:Coratella G, Tornatore G, Longo S, Esposito F, Cè E. IJERPH, 17(17), 6015, 2020年(PMC7503819の全文

両方入れるなら、サイドレイズを先、アップライトロウを後に置く構成が扱いやすいはずです。単関節種目で三角筋中部を疲れさせておくと、アップライトロウで重量を追いすぎる展開になりにくくなります。

肩を1つの部位として組む場合は、フロントレイズ(前部)・サイドレイズ(中部)・リアレイズ(後部)の3方向に、アップライトロウを僧帽筋込みの一手として足す形が分かりやすい組み方です。

6. アップライトロウのメリット

  • 1種目で三角筋と僧帽筋の両方に負荷をかけられます。 レイズ系とシュラッグを別々に組むより、時間あたりの効率は上がります。
  • 多関節種目なので、レイズ系より重い重量を扱えます。 肘の屈筋群が加勢するためです。
  • 必要な器具が少なく、バーベル1本・ダンベル2つで完結します。 ケーブルやスミスマシンでも実施できます。
  • グリップ幅で狙いを調整できます。 三角筋・僧帽筋寄りにしたければ広め、という方向づけができます(1. どこに効く参照)。

逆に、代わりが利かない種目ではありません。 三角筋中部はサイドレイズ、僧帽筋上部はシュラッグで個別に狙えます。肩に不安があってアップライトロウを外す場合でも、この2種目の組み合わせでカバーできると考えて構いません。

7. アップライトロウのバリエーション

  • バーベル(ストレートバー): 基本形。左右のバランスが取りやすく、重量の管理もしやすい形です。ただし手首・前腕の角度が固定されるため、手首に詰まりが出やすいのもこの形です。
  • EZバー: 波形のバーを使うことで、前腕をわずかに回外させた角度で握れます。手首の違和感が出る場合の第一候補です。
  • ダンベル: 左右が独立するため、グリップ幅と軌道を自分で調整できます。バーに手首を合わせる必要がありません。構え方・引き上げ方は2. やり方のバーベルと同じで、太もも前から肘主導で引き上げ、肘が肩の高さに来るあたりで止めます。左右がバラバラに動きやすいので、鏡や動画で軌道を確認すると崩れに気づきやすくなります。
  • ケーブル: 可動域全体で張力が抜けにくいのが特徴です。低い位置のプーリーにストレートバーやロープを付けて行います。肘から引き上げて肩の高さ付近で止めるのはバーベルと共通ですが、ケーブルは軌道が斜め上に流れやすいため、バーを体から離さないよう意識してください。
  • スミスマシン: 軌道が固定されるため、バーの前後のブレを気にせず引き上げる高さの管理に集中できます。

バリエーションを変えたら重量も測り直してください。 バーベルで扱えていた重量が、ダンベルではそのまま使えないことがあります。

なお、1. どこに効くで紹介したグリップ幅の筋電図研究はバーベルのみを対象にしています。ダンベルやケーブルでは重力・張力のかかる方向が変わるため、同じ結果になるとは限りません。

8. 他の種目との組み合わせ方

肩と僧帽筋を扱う日のメニュー例です。他の部位も含めた週単位の組み方はジムの筋トレメニューの組み方を参照してください。

  1. ショルダープレス(多関節・三角筋全体)
  2. サイドレイズ(三角筋中部)
  3. リアレイズ(三角筋後部)
  4. アップライトロウ(三角筋前部・中部+僧帽筋)
  5. シュラッグ(僧帽筋上部)

アップライトロウとシュラッグはどちらも僧帽筋上部を使うため、両方を高強度で入れると重複します。どちらかに絞るか、片方を軽めのセット数にとどめるのが現実的です。

自宅で行う場合はダンベルがあれば十分です。器具の選び方や自宅での進め方はダンベルトレーニングの記事を参照してください。

9. アップライトロウに関するよくある質問(FAQ)

アップライトロウはどこに効きますか?

三角筋(前部・中部)と僧帽筋が主なターゲットで、肘を曲げるため上腕二頭筋も関与します。グリップを広くするほど三角筋・僧帽筋の筋電位が高く、上腕二頭筋は低くなるという測定結果があります(McAllister et al., 2013)。

アップライトロウは何キロから始めればいいですか?

kgではなく回数から決めてください。12〜15回で限界が来る重量が目安です。バーベルならシャフト単体、ダンベルならサイドレイズで使っているものと同じか1段階重いものから試してください。性別・体重別のkg早見表も流通していますが、学術的に検証された基準ではありません。

アップライトロウは肩に悪いのですか?

「必ず悪い」とも「安全」とも、現時点のデータでは断定できません。内旋位のまま肩の高さより上へ挙上するという構造上の特性は事実で、臨床総説はこれを理由に配慮を促しています(Schoenfeld et al., 2011)。一方で、根拠として使われる肩峰下スペースの測定結果は研究間で割れており、種目単位の傷害発生率のデータもありません。実務的には、鎖骨より上へ引き上げない・重量を上げすぎない・肩に症状があるなら外す、という対応になります。詳しくは4. 注意点を参照してください。

アップライトロウとサイドレイズ、どちらを選ぶべきですか?

肩幅を広く見せたいという目的なら、三角筋中部を単独で狙えるサイドレイズのほうが直結します。アップライトロウは三角筋と僧帽筋をまとめて扱える効率が強みです。両方入れる場合はサイドレイズを先に置くと、アップライトロウで重量を追いすぎにくくなります。

どこまでバーを引き上げればいいですか?

肘が肩の高さに来るあたり、バーでいえばみぞおち〜胸の高さです。あごや鎖骨より上まで引き上げると、内旋位での高い挙上という、この種目でリスクが議論される肢位に入っていきます。

グリップは広いのと狭いの、どちらが正解ですか?

目的によります。三角筋・僧帽筋の活動を高めたいなら広め、というのが筋電図研究の方向性です。ただしこれは同一負荷・短時間の測定であり、筋肥大の効果を比較したものではありません。狭いグリップが間違いというわけでもなく、手首や肩に違和感が出ない範囲で選んで構いません。

手首が痛くなります。

ストレートバーは手首の角度が固定されるため、詰まりが出やすい形です。EZバー、ダンベル、ケーブル(ロープ)の順に手首の自由度が上がります。引き上げる高さを下げるだけで解消することもあります。

アップライトローとアップライトロウは違う種目ですか?

同じ種目です。英語の「upright row」の表記揺れで、日本語では両方が使われています。

10. まとめ

アップライトロウは、三角筋と僧帽筋を1種目でまとめて扱える効率の高い種目です。同時に、内旋位のまま肩より上へ挙上するという構造から、安全性の議論が絶えない種目でもあります。

実践面では、次の3点を押さえてください。

  1. 引き上げる高さを管理します。 肘が肩の高さに来るあたりで止め、鎖骨より上へは引き上げません。この種目でリスクが議論されるのは高い挙上域です。
  2. 重量ではなく回数から決めます。 12〜15回で限界が来る範囲に設定します。重くするほど、まず「高く上げすぎる」「反動を使う」という形で崩れます。
  3. 肩に症状があるなら、無理に選ぶ種目ではありません。 サイドレイズとシュラッグの組み合わせで、狙う筋はカバーできます。

そして、この種目をめぐる情報を読むときの視点として、もう1点。「内旋すると肩峰下が狭くなるから危険」という説明も、「測定してみたら内旋のほうが広かったから安全」という説明も、どちらも根拠としては足りていません。 研究間で結果が割れている領域だからです。断定を避けて、引き上げる高さと重量という自分で管理できる要素に手をかけるほうが、実際的です。

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この記事を書いた人

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