ベントオーバーロー(ベントオーバーロウ、ベントオーバーローイングとも表記されます)は、上体を前に倒したままウェイトを体へ引き寄せる種目です。押さえるべき点は3つに絞れます。上体の高さを動作中ずっと固定する、手でなく肘を後ろへ引く、8〜12回で限界が来る重量から始める。この3つです。
この種目には「腰に悪い」という評判がついて回ります。前傾した姿勢で荷重を保持するという構造上、腰部への負荷が話題になるのは自然なことです。
ただし、「だから危険」と言い切れるほど話は単純ではありません。 前傾姿勢と腰の関係を調べた研究は、方向の違うことを言っています。この記事では、効く部位・フォーム・重量という基本を先に片づけたうえで、腰の論点を出典付きで整理します。
1. ベントオーバーローはどこに効く?
引く動作の主役は広背筋・僧帽筋(中部・下部)・菱形筋・大円筋です。肘を曲げるため上腕二頭筋も関与し、前傾姿勢を保つために脊柱起立筋が働き続けます。
「背中」とひとまとめにされがちですが、上から引く種目と、後ろへ引く種目では担当が変わります。 ここが種目選びの分かれ目です。
男性12名を対象に、複数の引く種目で中部僧帽筋・菱形筋群の活動を比較した研究では、次の順になりました。
| 種目 | 中部僧帽筋・菱形筋群の%MVC |
| シーテッドロー(後ろへ引く) | 35.50% |
| ワイドグリップ・プルダウン(上から引く) | 22.72% |
| 逆手プルダウン(上から引く) | 20.51% |
出典:Lehman GJ, et al. Dynamic Medicine, 3(1), 4, 2004年(PMC449729の全文 )
この数値の読み方には条件があります。測定されたのはシーテッドローであってベントオーバーローそのものではなく、また等尺性(関節を動かさず力を出す)条件での測定です。動作全体を通した値ではありません。それでも、肩甲骨を内側へ寄せる筋群にとっては、上から引くより後ろへ引くほうが出番が多いという方向は読み取れます。ラットプルダウンをやっているのにベントオーバーローも必要だとされる理由は、ここにあります。
ローイング種目のあいだの比較については、インバーテッドロウ(斜懸垂)/立位ベントオーバーロウ/立位片手ケーブルロウの3種を直接比較した研究があります。そこでは立位ベントオーバーロウが背部全体に対称的に大きな活動を生じる一方、広背筋・上背部・股関節伸展筋群の活動が最も高いのはインバーテッドロウと報告されています。腰部への負荷とあわせて4. 「腰に悪い」はどこまで本当かで扱います。
グリップを広くすれば広背筋に効く、とは限りません
順手で広く持つと広背筋、狭く持つと僧帽筋——といった説明をよく見かけます。ベントオーバーローのグリップ幅を直接比較した研究は、当サイトでは確認できていません。
参考になるのは、同じ「引く」動作であるラットプルダウンのデータです。男性15名でナロー・ミディアム・ワイドの3グリップを比較した研究では、広背筋・僧帽筋・棘下筋の筋電位は動作全体では有意差が出ませんでした(6RMで扱える重量だけはワイドが有意に低い:ナロー80.3±7.2kg、ミディアム80.0±7.1kg、ワイド77.3±6.3kg、p=0.02)。男性40名でグリップ・幅・体幹傾斜の7バリエーションを比較した別の研究でも、広背筋の活動に条件間の有意差はありませんでした。
出典:Andersen V, Fimland MS, Wiik E, Skoglund A, Saeterbakken AH. J Strength Cond Res, 2014年(PubMed PMID 24662157 )/Buonsenso A, et al. J Functional Morphology and Kinesiology, 2025年(PMC12452428の全文 )
いずれもラットプルダウンの研究なので、ベントオーバーローに当てはめるのは推定です。ただ、「グリップ幅を変えれば効く筋が入れ替わる」という前提そのものが、少なくとも近い種目では支持されていないことは押さえておいて損はありません。グリップは、効く筋を切り替えるスイッチというより、手首と肩に無理が出ない持ち方を選ぶための調整と考えるほうが現実的です。
2. ベントオーバーローの正しいやり方

バーベルを使った基本形です。
- セットアップ: 足を腰幅に開き、バーを順手で肩幅よりやや広めに握ります。
- 前傾をつくる: 膝を軽く曲げ、股関節から上体を前に倒します。 腰を丸めるのではなく、お尻を後ろへ引くイメージです。すねはほぼ垂直、重心は足の中央からかかと寄りに置きます。
- 上体を固定する: ここが最重要です。この後の動作中、上体の高さと角度を一切変えません。 バーを引くたびに体が起き上がるなら、重量が重すぎます。
- 肘を後ろへ引く: 手で持ち上げるのではなく、肘をできるだけ後方へ送ります。バーはへそ〜下腹部に向かって引き寄せます。
- 下ろす: 落とさずにコントロールして戻します。腕が伸びきる位置まで戻して、肩甲骨も一度開放します。
- 呼吸: 引くときに吐き、戻すときに吸います。動作中に息を止め続けないようにしてください。
前傾角度は「45度」でいいのか
上位の解説記事では「地面に対して45度」という目安が繰り返し示されます。ただし、前傾角度を比較して最適値を示した研究は、当サイトでは確認できていません。 角度の数字を追いかけるより、次の2点で判断するほうが確実です。
- 深く倒すほど広背筋の可動域は取りやすくなり、脊柱起立筋の負担も増えます。
- 浅くするほど腰は楽になりますが、上体が起き上がりやすく、引く動作が「体を反らす動作」に化けやすくなります。
最初は上体が床と45度前後になるあたりから始め、上体の高さを固定できる範囲でいちばん深い角度を自分の基準にする、という決め方が扱いやすいはずです。
フォームが崩れていないかの確認ポイント
| チェック項目 | 崩れているサイン |
| 上体の高さ | 引くたびに体が起き上がる/下がる |
| 背中のライン | 背中が丸まる、あるいは強く反っている |
| 肘 | 肘が体の横で止まり、後方へ抜けていない |
| バーの軌道 | 体から離れて前方に弧を描く |
| 重心 | つま先側に乗り、前へ倒れそうになる |
| 反動 | 膝や股関節の反動で引き上げている |
| 首 | あごを上げて前方を見上げている |
セット最初の1回ではなく、最後の1〜2回でこの表を確認してください。崩れは終盤に出ます。
3. ベントオーバーローは何キロから?

3-1. 最初の1本の決め方
8〜12回でギリギリ限界が来る重量から始めてください。 バーベルならシャフト単体(20kgのオリンピックバー、または軽量バーやEZバー)、ダンベルなら両手で扱える軽いものが試着候補です。
「初心者は◯kg」「体重の◯割」といった早見表も流通していますし、実際そう言われることも多いのですが、体重や性別から適正重量を割り出せる、学術的な検証を経た基準は当サイトでは確認できていません。 数値そのものを否定するわけではありませんが、判断の軸にするなら回数から決める方法のほうが確実です。
ベントオーバーローには、他種目より重量を上げにくくする事情がもう一つあります。上体を固定できる範囲が上限になることです。挙上できる重量と、前傾を保てる重量は別で、後者のほうが軽くなります。先に頭打ちになるのは背中ではなく姿勢の維持です。
3-2. 回数を先に決めて、重量を後から合わせます
RM(Repetition Maximum)とは、フォームを保ったまま挙げられる限界の回数です。12回で限界が来る重量を「12RM」と表現します。
アメリカスポーツ医学会(ACSM)の2009年版ポジションスタンドでは、経験レベルの定義と、レベル別の負荷・頻度が次のように示されています。
| 経験レベル | 定義(ACSM 2009年版) | 推奨される負荷 | 頻度 |
| Novice(初心者) | レジスタンストレーニングの経験がない、または数年間トレーニングしていない | 8〜12RM | 週2〜3回 |
| Intermediate(中級者) | 継続的なレジスタンストレーニング経験が約6か月 | 1〜12RMを周期的に変化させる | 週3〜4回 |
| Advanced(上級者) | 数年のレジスタンストレーニング経験がある | 1〜12RMを周期化し、1〜6RMを重視 | 週4〜5回 |
出典:American College of Sports Medicine「Progression Models in Resistance Training for Healthy Adults」Med Sci Sports Exerc, 41(3), 687–708, 2009年(PubMed PMID 19204579 )
上の定義・負荷・頻度は、ACSMが2009年に公表したポジションスタンドの記載です(2026年版の改訂内容は下記)。Intermediateの「約6か月」は原文が approximately(およそ)であり、6か月で切り替わる厳密な閾値ではありません。 著者自身も「これらの推奨は文脈のなかで適用され、個人の目標・身体能力・トレーニング状態に依存する」と明記しています。これはレジスタンストレーニング全般の原則で、ベントオーバーロー専用の基準ではありません。頻度もトレーニング全体に対する推奨です。
ACSMは2026年に改訂版を公表しています。137件のシステマティックレビュー・3万人超のデータを統合したもので、筋肥大が目的なら対象筋群あたり週約10セットを確保し、下ろす局面(エキセントリック)を重視することが有効とされました。失敗まで追い込むこと・器具の種類・複雑な期分けは、成果に一貫した影響を与えなかったと結論づけられています。種目ごとのkg基準はここでも示されていません。
出典:American College of Sports Medicine「Resistance Training Prescription for Muscle Function, Hypertrophy, and Physical Performance in Healthy Adults: An Overview of Reviews」Med Sci Sports Exerc, 58(4), 2026年(PMC12965823の全文 )
実務上の組み方は次のようになります。
- 回数: 8〜12回で限界が来る重量。上体の固定が崩れるなら12〜15回側へ寄せます
- セット数: 2〜3セット。ACSM 2026年版の「週約10セット」はベントオーバーロー単体ではなく、広背筋・僧帽筋を使う種目の合計で数えます
- 頻度: 週2〜3回
- 順序: ACSM 2009年版は「運動強度の保持を最適化するように配列する」として、大筋群→小筋群、多関節→単関節、高強度→低強度の順を示しています。ベントオーバーローは多関節種目ですが、前傾を保つ体力を先に使い切らないよう、脊柱起立筋を強く使う種目(デッドリフト系)の直後は避けるほうが扱いやすくなります
- セット間の休憩: ACSM 2009年版は目的別に、筋力(中級〜上級)3〜5分/筋肥大1〜2分/局所筋持久力(40〜60%1RMで15回超)90秒未満を示しています。上位記事の「60〜90秒/1分程度」は、この区分では筋肥大〜局所筋持久力寄りの数値にあたります
休憩時間そのものについては系統的レビューが2件あります。23研究・計491名を統合したレビューは、60秒未満の短い休憩でも頑健な筋力向上は達成しうるが、鍛錬者が筋力向上を最大化するには2分を超える休憩が必要と思われ、未訓練者は60〜120秒で十分と思われると結論しています。筋肥大については6研究を統合したレビューが、短い休憩も長い休憩もいずれも有用でありうるとしています。
出典:Grgic J, Schoenfeld BJ, Skrepnik M, Davies TB, Mikulic P. Sports Med, 48(1), 137–151, 2018年(PubMed PMID 28933024 )/Grgic J, Lazinica B, Mikulic P, Krieger JW, Schoenfeld BJ. Eur J Sport Sci, 17(8), 983–993, 2017年(PubMed PMID 28641044 )
上の2件はいずれも系統的レビューであり、メタ解析ではありません。「メタ解析でこう示された」とは書けません。前者の著者自身も「最適な休憩時間の推奨は主として急性効果を調べた研究から推論されており、長期の適応への一般化可能性は不確かである」と述べています。ベントオーバーローを対象に休憩時間を比較した研究は当サイトでは確認できていません。 並び順についても、ACSM 2009年版が示しているのは推奨であり、順序を入れ替えて結果を比較した介入研究のメタ解析ではありません。
4. 「腰に悪い」はどこまで本当か
先に実務的な結論を3つ置きます。
- 上体の高さを固定できない重量は使いません。 これが唯一、自分で管理できる要素です。
- 背中を丸めることも、強く反らせることも避けます。 どちらかが正解という話ではありません(理由は後述します)。
- 腰に痛みや違和感がある場合、この種目を無理に選ぶ必要はありません。 上体を支えなくても引ける種目(シーテッドロー、ワンハンドダンベルロー、ラットプルダウン)に置き換えられます。
以下、なぜこう言えるのかを見ていきます。
4-1. 前傾+荷重で腰椎の負荷が増えることは確認されています
前傾した姿勢で荷重を扱うと、腰椎にかかる屈曲モーメントと椎間板の圧縮力が荷重の増加に伴って大きくなります。これは箱を持ち上げる動作を対象にした研究の結果であり、ベントオーバーローを直接測定したものではありません。
出典:Han JS, et al. Eur Spine J, 4(3), 153–168, 1995年(PubMed PMID 7552650 )
つまり「前傾して重い物を扱えば腰椎の負荷は増える」という一般原則は成り立ちます。そのうえで、その負荷が痛みや傷害に直結するかは別の問題です。 ここから先が食い違っています。
4-2. 「丸めたら腰痛になる」も確定していません
職業中の体幹屈曲を実測した4研究・計2,013名(北欧・西欧のブルーカラー労働者)を対象にした系統的レビューでは、関連を支持する証拠は認められませんでした。 ただし著者はエビデンスの確実性は低いと明記しています。
出典:Maillard A, et al. Work, 84(1), 42–51(2025年オンライン公開、PMC13144654の全文 )
なお、この研究が調べたのは職業中の姿勢であり、筋力トレーニングの動作は検証されていません。トレーニングへの適用は外挿です。著者は、エビデンスの確実性が低いこと、60度以上の屈曲が1日約1時間を超えない集団に限って妥当であることも限界として挙げています。
これは「背中を丸めても腰痛にならない」という意味ではありません。 確実性の低いエビデンスで関連が示されなかった、というだけです。「丸めても平気」の根拠としては使えません。
4-3. 反り腰にすれば安全、でもありません
では逆に、腰を強く反らせればよいのか。ここも支持されていません。腰椎の前弯位(反った状態)と後弯位(丸めた状態)を力学的に比較した研究では、前弯位のほうが活動筋力・軸圧縮力・剪断力がいずれも高くなりました。著者の結論は、極端な姿勢ではなく自然な姿勢または中等度の屈曲でした。
出典:Arjmand N, Shirazi-Adl A. Spine, 30(23), 2637–2648, 2005年(PubMed PMID 16319750 )
「反らせば安全」という推奨としてこの研究を使うことはできません。 反らせる方向にも負荷は増えます。
4-4. ローイング種目のあいだでは腰部負荷に差があります
ローイング種目3種——インバーテッドロウ(斜懸垂)/立位ベントオーバーロウ/立位片手ケーブルロウ——を直接比較した研究があります。健常男性7名を対象に、体幹・股関節の筋の表面筋電、電磁式センサによる脊柱位置、ビデオ解析による関節モーメントを同時に計測したものです。
| 種目 | 報告された特徴 |
| インバーテッドロウ(斜懸垂) | 広背筋・上背部・股関節伸展筋群の活動が最も高い。 腰部脊柱起立筋の活動が低く、それに対応して計測された脊柱負荷も低い |
| 立位ベントオーバーロウ | 背部全体に対称的に大きな活動を生じる。ただし腰椎への脊柱負荷が3種目のなかで最も大きく、脊柱剛性も最も高い |
| 立位片手ケーブルロウ | 体幹筋群の捻り(torsional)能力に負荷をかける |
著者の結論は「腰部を保護したい場合は、脊柱負荷が最も低いインバーテッドロウを選ぶとよい。捻りの持久力・筋力がトレーニング目標なら片手ケーブルロウを検討しうる」です。
出典:Fenwick CM, Brown SH, McGill SM. J Strength Cond Res, 23(2), 350–358, 2009年, DOI 10.1519/JSC.0b013e3181942019, PMID 19197209(PubMed )/同一タイトル・同一著者・ほぼ同一抄録の論文が同誌 23(5), 1408–1417, 2009年, DOI 10.1519/JSC.0b013e3181b07334, PMID 19620925(PubMed )にも掲載されています。
被験者は健常男性7名で、1回の測定(急性)です。抄録に数値・p値の記載がありません。「脊柱負荷が最も大きい」ことと「傷害が起きる」ことは別で、この研究は傷害の発生を追跡していません。 書誌上の注意として、同一内容が J Strength Cond Res 2009 に2回掲載されており、PubMedのどちらの記録にも Erratum / Retraction / Duplicate Publication の注記がないため、どちらが版元記録かを一次ソースから判別できません。 そのため誌名・年だけでは引用できず、上記のとおり両方のPMIDとDOIを併記しています。
この研究は「ベントオーバーローは腰部への負荷が大きい種目である」という点の裏づけになります。 ただし裏づけられているのはローイング種目のなかでの相対的な大小であって、「危険である」ことではありません。腰を保護したい場合の具体的な代替としてインバーテッドロウ(斜懸垂)が挙がる、という実務的な情報が加わったと読むのが正確です。
4-5. 結局どうすればよいか
| 判断材料 | 現時点で言えること | 実務での対応 |
| 前傾+荷重 | 荷重が増えれば腰椎の負荷は増える(別動作の研究) | 重量を上げすぎない |
| 背中を丸める | 腰痛との関連は示されていないが、確実性は低い | 「丸めても平気」とは扱わない |
| 腰を反らせる | 反り位のほうが圧縮力・剪断力は高い | 極端に反らせない |
| ローイング種目間の差 | ローイング3種のなかでは立位ベントオーバーロウの脊柱負荷が最も大きく、インバーテッドロウが最も低い(男性7名・急性測定) | 腰部を保護したい場面ではインバーテッドロウを選ぶ |
| 姿勢の維持 | 種目固有のデータは確認できていない | 上体の高さが動くなら重量を下げる |
| 既往・現在の症状 | – | 痛みがあるなら外す、または代替種目へ |
腰や背中の痛み・違和感が続く場合は、自己判断でトレーニングを継続せず、整形外科などの医療機関や専門家への確認が必要な場合があります。 本記事は一般的な情報提供であり、個別の症状に対する診断や治療方針を示すものではありません。
なお、ベルトを巻けば腰の問題が解決するという根拠は当サイトでは確認できていません。 ベルトの有無に関わらず、上体を固定できる重量に収めるという判断は変わりません。
5. バリエーション
- バーベル(順手): 基本形。左右のバランスが取りやすく、重量の管理もしやすい形です。
- バーベル(逆手・アンダーグリップ): 肘が体側を通りやすくなります。上腕二頭筋の関与が増える形ですが、順手と逆手で背中側の筋活動を比較した研究は当サイトでは確認できていません。 手首や肘に違和感が出ない側を選んで構いません。
- ダンベル(両手): 左右が独立するため軌道を自分で決められます。バーが体に当たらないぶん、引く距離を長く取れます。
- ワンハンドダンベルロー: ベンチに片手をつくため、上体を自分の脊柱起立筋で支える必要がなくなります。 腰が不安な場合の第一候補です。
- インバーテッドロウ(斜懸垂): 低い位置のバーやスミスマシンのバーにぶら下がり、足を床につけたまま体を引き上げる形です。ローイング3種を比較した研究で、腰部脊柱起立筋の活動と計測された脊柱負荷がいちばん低かった種目です(§4-4)。負荷は体を起こす角度で調整します。
- 片手ケーブルロウ(立位): 同じ研究で、体幹の捻り(torsional)能力に負荷をかける種目と位置づけられています。
- スミスマシン: バーの軌道が固定されるため、前後のブレを気にせず上体の固定に集中できます。
- チューブ(トレーニングバンド): 自宅で器具がない場合の代替です。バンドは伸びるほど張力が増えるため、バーベルと同じ重量感覚では扱えません。
器具を変えたら回数を測り直してください。 バーベルで8〜12回だった負荷が、ダンベルやバンドで同じにはなりません。
6. 他の種目との使い分け
背中の日に組む場合の例です。
ベントオーバーローとデッドリフトはどちらも前傾姿勢で脊柱起立筋を使います。両方を高重量で同じ日に入れると、背中の筋力より先に姿勢の維持が限界を迎えます。 順序を入れ替えるか、どちらかを軽めに抑えるのが現実的です。
三角筋後部まで1種目でまとめたい場合は、期待しすぎないほうが無難です。ベントオーバーローを含む複数種目の筋力を動力学モデルで推定した研究では、後部三角筋についてベントオーバーダンベルラテラルレイズがフェイスプルとほぼ同等で、ベントオーバーローより高いと報告されています。これは表面筋電の実測ではなくモデルによる推定値です。
出典:Zhu Q, Chen Z, Feng L. Acta Bioeng Biomech, 27(4), 135–147(PubMed PMID 41964926 )
器具ごとの選び方や、ジムでのメニューの組み立てはジムの筋トレメニューを参照してください。
7. よくある質問(FAQ)
- ベントオーバーローとベントオーバーロウは違う種目ですか?
-
同じ種目です。英語の「bent-over row」の表記揺れで、日本語では「ロー」「ロウ」「ローイング」が併用されています。
- ベントオーバーローはどこに効きますか?
-
広背筋・僧帽筋(中部・下部)・菱形筋・大円筋が主なターゲットで、上腕二頭筋も関与します。前傾を保つあいだ脊柱起立筋が働き続けます。肩甲骨を内側へ寄せる筋群にとっては、上から引く種目より出番が多いという方向のデータがあります(1. どこに効く参照)。
- 何キロから始めればいいですか?平均重量はどのくらいですか?
-
kgではなく回数から決めてください。8〜12回で限界が来る重量が目安です。体重比や性別別の平均値を示す早見表は流通していますが、学術的に検証された基準は当サイトでは確認できていません。
- ベントオーバーローは腰に悪いのですか?
-
「必ず悪い」とも「安全」とも、現時点のデータでは断定できません。前傾して荷重を扱えば腰椎の負荷が増えることは確認されていますが、背中を丸めることと腰痛の関連は示されておらず(確実性は低い)、逆に反らせる姿勢のほうが圧縮力・剪断力が高いという結果もあります。ローイング3種を比較した研究(男性7名・急性測定)では、立位ベントオーバーロウが腰椎への脊柱負荷が最も大きく、インバーテッドロウ(斜懸垂)が最も低いと報告されています。ただしこれは種目間の相対的な大小であり、傷害の発生を追跡した研究ではありません。実務的には、上体の高さを固定できる重量に抑える、極端な反り・丸めを避ける、腰部を保護したい場面ではインバーテッドロウに置き換える、痛みがあるなら外すという対応になります。詳しくは4. 「腰に悪い」はどこまで本当かを参照してください。
- 前傾は何度が正解ですか?
-
角度を比較した研究は当サイトでは確認できていません。45度前後という目安が広く流通しています。上体の高さを固定できる範囲でいちばん深い角度を自分の基準にする、という決め方が扱いやすいはずです。
- 順手と逆手はどちらがいいですか?
-
背中側の筋活動を順手・逆手で比較した研究を当サイトでは確認できていません。逆手は肘が体側を通りやすく、上腕二頭筋の関与が増える形です。手首や肘に違和感が出ない側を選んで構いません。
- ラットプルダウンや懸垂をやっていれば、ベントオーバーローは不要ですか?
-
肩甲骨を内側へ寄せる筋群(僧帽筋中部・菱形筋)については、後ろへ引く種目のほうが活動が高いというデータがあります。上から引く種目だけで置き換えるのは難しいと考えるほうが無難です。
- 腰が不安ですが、背中は鍛えたいです。
-
ワンハンドダンベルローやシーテッドローなら、上体を自分の脊柱起立筋で支える必要がありません。ラットプルダウンも同様です。インバーテッドロウ(斜懸垂)は、ローイング3種を比較した研究で腰部脊柱起立筋の活動と脊柱負荷がいちばん低かった種目であり、しかも広背筋・上背部・股関節伸展筋群の活動は3種のなかで最も高いと報告されています(男性7名・急性測定)。腰を守りながら背中を引く種目としては第一候補になります。
- セット間の休憩は何秒ですか?
-
ACSM 2009年版は目的別に、筋力3〜5分/筋肥大1〜2分/局所筋持久力90秒未満を示しています。上位記事の「60〜90秒/1分程度」はこの区分では筋肥大〜持久力寄りの数値です。系統的レビュー(23研究・491名)では、鍛錬者が筋力向上を最大化するには2分超、未訓練者は60〜120秒で十分と思われるとされています。ベントオーバーローを対象に休憩時間を比較した研究は当サイトでは確認できていません。
8. まとめ
ベントオーバーローは、上から引く種目では出番の少ない僧帽筋中部・菱形筋にしっかり仕事をさせられる種目です。同時に、前傾姿勢で荷重を保持するという構造から、腰の議論が絶えない種目でもあります。
実践面では、次の3点を押さえてください。
- 上体の高さを固定します。 引くたびに体が起き上がるなら、それは背中の限界ではなく重量の間違いです。
- 手ではなく肘を後ろへ引きます。 バーはへそ〜下腹部へ。腕が伸びきる位置まで戻して可動域を捨てません。
- 腰に症状があるなら、無理に選ぶ種目ではありません。 ワンハンドダンベルロー、シーテッドロー、インバーテッドロウ(斜懸垂)で、狙う筋はカバーできます。ローイング3種を比較した研究では、インバーテッドロウが脊柱負荷が最も低く、しかも広背筋・上背部・股関節伸展筋群の活動は最も高いと報告されています(男性7名・急性測定)。
そして情報を読むときの視点として、もう1点。「背中を丸めると腰痛になる」も「反らせば安全」も、現時点のデータでは根拠が足りていません。 姿勢の細部を詰めることより、上体を固定できる重量に収めるほうが、自分で管理できる分だけ実際的です。
