ジムのアブダクションマシンについて、上位5記事はすべて「美尻」「ヒップアップ」を効果として挙げていました(2026年8月14日時点)。
ただし、この種目を続けて臀部の形が変わったことを画像で確認した研究を、当サイトでは1件も確認できませんでした。
そしてもう1点、より実務的な問題があります。「マシンのほうが中臀筋によく効く」と読める論文がありますが、原典の本文は「3種目間で中臀筋の活動に差はなかった」と書いています。
1. まず呼び方を整理します
このマシンは、呼び方が売り手側と解説側で割れています。
| 呼んでいる側 | 使っている名前 |
| メーカー・販売店 | 「アブダクター・アダクター」「アブダクション/アダクション」(1台2役の製品として併記) |
| ジムの解説記事 | 「ヒップアブダクションマシン」(内転側に触れない) |
2026年8月14日時点で取得できた上位記事のうち、外転と内転の両方を1台のマシンとして扱っていたのは1件だけでした。その1件も「なぜ両方やるのか」には答えていません。
この記事では、脚を外に開く動き(股関節外転)を扱います。 同じマシンで脚を内に閉じる動き(股関節内転)についてはアダクターマシンの記事で扱っています。
- 股関節外転:脚を体の外側へ開く動き。このマシンで行う動作
- 中臀筋(ちゅうでんきん):骨盤の外側にある筋。股関節外転の主役
- 小臀筋(しょうでんきん):中臀筋の深部にある筋
- 大腿筋膜張筋(だいたいきんまくちょうきん、TFL):骨盤の前外側から太ももの外側へ伸びる筋。この筋がこの記事の重要な登場人物です
2. どこに効くのか
上位記事の答えが割れています。
| 挙げている筋 | 記事数 |
| 中臀筋・小臀筋・大腿筋膜張筋 | 3件 |
| 大臀筋・中臀筋 | 1件 |
| 大臀筋・中臀筋・内転筋群 | 1件 |
「他の人はこちらも質問」に「ヒップアブダクションはどこに効くの?」という質問が出ているにもかかわらず、上位記事の答えが揃っていません。
2-1. 研究で確認できること
健常男性11名(29.18±4.51歳)を対象に、アブダクションマシン・側臥位(横向きに寝て脚を上げる)・クラムシェルの3種目で筋電図を測定した研究があります。
原典は次のように書いています。
「中臀筋の活動は、脚を開く局面・戻す局面の両方において、すべての種目で大腿筋膜張筋より高かった」
出典:de Almeida Paz I, et al. J Bodyw Mov Ther, 30, 160-167, 2022年(PMID: 35500965、PubMed )。利益相反なしと明記されています。
この研究は男性11名のみを対象とした単回の筋電図測定で、女性は含まれていません。長期的にどの種目が筋を増やすかを調べたものではありません。 また抄録のみの確認で、各種目の数値そのもの、著者が明記した限界、資金源は確認できていません。
2-2. 大臀筋については条件付きです
大臀筋については、上部と下部で振る舞いが違うという報告があります。
健常者20名を対象に、表面電極では分離しにくい大臀筋上部・下部をワイヤ電極(筋内に刺す電極)で測定した研究では、「股関節の外転および/または外旋の要素を含む種目では、大臀筋の上部が下部より有意に高い相対的筋電活動を示した(評価した11種目のうち5種目)」とされています。一方、主に股関節伸展を伴う種目は、大臀筋の上部と下部を同程度に働かせたと報告されています。
出典:Selkowitz DM, Beneck GJ, Powers CM. J Orthop Sports Phys Ther, 46(9), 794-799, 2016年(PMID: 27494053、PubMed )
この研究の11種目にアブダクションマシンは含まれていません。 また単回の筋電図測定であり、長期的な変化を見たものではありません。抄録のみの確認で、対象者20名の性別内訳・年齢・鍛錬状態、著者が明記した限界、利益相反・資金源は確認できませんでした。
「桃尻」「大きなお尻」といった大臀筋全体の訴求をこの種目に結びつけている記事がありましたが、大臀筋の主な働きは股関節を伸ばすことで、この種目の動きとは異なります。 大臀筋を主目的にするならヒップスラストやスクワットのほうが動きが一致します。
3. 「マシンが一番効く」という説明について

論文のタイトルと、本文の結果が別のことを言っています。
2章で挙げた de Almeida Paz 2022 は、論文のタイトルが「マシンのほうが良い」という趣旨になっています。しかし抄録の本文は、次のように書いています。
「3種目間で、中臀筋の活動に差はなかった(両局面とも)」
マシンが他の2種目より優れていたのは、「中臀筋と大腿筋膜張筋の比」という別の指標です。
| 指標 | 結果 |
| 中臀筋の活動そのもの | マシン・側臥位・クラムシェルで差なし |
| 大腿筋膜張筋の活動 | 側臥位がマシン・クラムシェルより高い |
| 中臀筋:大腿筋膜張筋の比 | マシンが他の2種目より大きい |
つまり「マシンのほうが中臀筋がよく働く」のではなく、「マシンのほうが大腿筋膜張筋が相対的に混ざりにくい」というのが、この研究から言えることです。
3-1. 別の条件で比べた研究は、別の結果を出しています
未鍛錬の女性16名(45.7±8.6歳)を対象に、座位のアブダクションマシンと立位のゴムバンドを比較した研究では、4段階すべての負荷で、ゴムバンドのほうが中臀筋の筋電活動が高いという結果でした(最大負荷付近:ゴムバンド101±7 vs マシン80±8、p=0.0008)。
出典:Brandt M, et al. Int J Sports Phys Ther, 8(6), 811-819, 2013年(PMID: 24377067、全文 )。資金はデンマーク労働環境研究基金。
ただし、この研究をもって「バンドのほうがマシンより優れている」と言うことはできません。
本文を読むと、マシン条件は「座位・両脚同時」、ゴムバンド条件は「立位・片脚」で行われています。
つまり「座位か立位か」「両脚か片脚か」「マシンかバンドか」の3つが同時に変わっており、どれが差を生んだのか切り分けられません。 これは著者が限界として挙げている項目ではありませんが、結果を読むうえで重要な点です。
著者自身は「本研究は未鍛錬女性を対象としており、アスリート・男性・異なる患者群に結果を適用できるとは結論できない」と明記しています。
この2つの研究を合わせて言えることは、「マシンが最も中臀筋に効く」という主張を支える根拠を確認できていない、ということです。
一方で、男性11名の単回の筋電図測定において、マシンは中臀筋と大腿筋膜張筋の比が他の2種目より大きかったと報告されています。これは比の観測結果であり、長期的にマシンのほうが有利であることを示したものではありません。 ただしこの「比」に登場する大腿筋膜張筋が、次の章の主役です。
4. 「太ももの外側に効いてしまう」問題
上位5記事のうち、この問題を扱っていた記事は0件でした。
お尻の横ではなく太ももの外側が張るとき、働いているのが大腿筋膜張筋である可能性があります。
大腿筋膜張筋は骨盤の前外側から始まり、太ももの外側を下ります。中臀筋と同じく股関節を外転させる働きを持つ筋です。 3章で見たとおり、種目によってこの筋がどれだけ混ざるかが変わることが、筋電図の研究で報告されています(マシン・側臥位・クラムシェルの比較)。
上位記事のうち3件は、大腿筋膜張筋を「鍛えられる筋」として挙げていました。間違いではありませんが、中臀筋を狙っている人にとっては、この筋が張ることは狙いどおりではありません。その点に触れた記事はありませんでした。
なお、「どこが張るか」という感覚と筋電図の測定結果の対応を調べた資料に、当サイトは到達できていません。以下は、筋の働きから考えられる説明です。
4-1. 股関節の屈曲角度で変わります
健常男性27名(21.5±1.2歳)を対象に、股関節の屈曲角度を0/20/40/60/80度に変えて等尺性の外転を行い、筋電図を測定した研究があります。
| 筋 | 屈曲0度 | 屈曲80度 | 変化 |
| 大臀筋上部 | 29.5±20.9 %MVC | 85.7±80.8 | 有意に増加 |
| 大臀筋下部 | 20.2±15.2 | 38.2±32.9 | 有意に増加 |
| 大腿筋膜張筋 | 69.8±29.4 | 45.1±23.9 | 有意に減少 |
| 中臀筋 | 58.6±29.7 | 66.1±53.0 | 有意差なし |
出典:Fujisawa H, et al. J Phys Ther Sci, 26(2), 187-190, 2014年(PMID: 24648628、全文 )。利益相反・資金源についての記載を、当サイトでは確認できませんでした。
著者は機序として、「屈曲位では大臀筋上部の走行が大腿骨の軸に平行に近づき、外転の作用が強まる」と説明しています。
(1)中臀筋は有意に変わりませんでした。 変わったのは大臀筋上部と大腿筋膜張筋です。「前傾すれば中臀筋にもっと効く」とは、この研究からは言えません。
(2)ばらつきが極端に大きい数値があります。 大臀筋上部の屈曲80度は85.7±80.8で、標準偏差が平均とほぼ同じです。個人差が非常に大きいことを意味します。
(3)これは背臥位(あおむけ)・等尺性(動かさずに力を入れる)の実験です。 座位のマシンで体幹を前傾させた状態を直接測定したものではありません。座位マシンで前傾角度を変えて臀筋の筋電図を測った研究は、当サイトでは確認できていません。
したがってこの研究から言えるのは、「背臥位・等尺性の条件で、股関節の屈曲角度を大きくすると大腿筋膜張筋の活動が減った」までです。 座位のマシンで上体を前に倒すと股関節の屈曲角度は大きくなりますが、それで同じことが起きるかどうかは検証されていません。
なお、股関節の角度を変えても筋活動のパターンは変わらなかった、とする研究もあります。健常男性13名を対象に、クラムシェルを股関節屈曲30/45/60度、側臥位の外転を股関節の内旋・中間位・外旋で行い、中臀筋と大腿筋膜張筋の比を測定したものです。
「股関節角度を変えても、中臀筋と大腿筋膜張筋の活動水準の相互関係に有意な影響はなかった」
出典:Sidorkewicz N, Cambridge ED, McGill SM. Clin Biomech, 29(9), 971-976, 2014年(PMID: 25246373、PubMed )。これも単回の筋電図測定であり、長期的な筋の変化や症状の改善を測ったものではありません。抄録のみの確認で、著者が明記した限界・利益相反・資金源は確認できませんでした。
この研究は大臀筋を測定しておらず、また指標が「比」で絶対値ではなく、姿勢も側臥位です。したがって上のFujisawa 2014と直接矛盾するとは言えません。ただし「角度を変えれば効きが変わる」と断定できる状況ではありません。
4-2. 実際に試せること
上記を踏まえると、太ももの外側ばかり張る場合に試せるのは次の2点です。ただし、いずれもマシンでの検証がされていない外挿です。効果を保証するものではありません。
- 背中を丸めないまま、股関節から上体をやや前に倒す(股関節の屈曲角度を増やす)
- 重量を下げ、骨盤を傾けずに動作できる範囲に収める
背もたれに寄りかかる基本姿勢(7章)に対して、これは条件付きの調整です。 背中を丸めて前かがみになることではありません。上位記事5件すべてが「背中を丸めない」を挙げており、そこは共通です。
2番目については、上位のマシン解説記事5件のうち、骨盤で代償することを禁じた記事は0件でした。唯一これに触れていたのは整形外科の記事で、自重の側臥位について「骨盤で引き上げない」「骨盤が後ろに倒れない」「下肢を体の前で上げない」と書いています(西東京かとう整形外科、2026年8月14日時点)。
なお、このマシンで重量と骨盤の代償動作の関係を測定した研究を、当サイトでは確認できませんでした。 上の2点は、代償動作を避けるという一般的なフォームの考え方に基づくものです。
5. 「美尻」「ヒップアップ」の根拠について
上位5記事すべてが美尻・ヒップアップを効果として挙げていましたが、学術的な根拠を示した記事は0件でした。
そして当サイトで一次情報を探した結果は次のとおりです。
股関節外転を主とする(または単独とする)トレーニングを数週間以上続けて、臀部の筋厚・筋体積・筋断面積・ヒップ周径の変化を測定した介入研究を、健常者・高齢者・患者のいずれの対象でも1件も確認できませんでした。
臀部の「見た目」を客観的な指標(周径・写真評価・体組成)で評価したトレーニング介入研究も、1件も確認できませんでした。
これは検索の漏れではないと考える理由があります。2025年に発表された大臀筋の筋肥大に関する系統的レビュー・メタ解析(12研究)は、組み入れた研究がすべて股関節を伸ばす種目(レッグプレス・スクワット・ヒップスラスト・デッドリフト等)で、外転を訓練種目とした研究はゼロでした。 そのうえで著者は今後の課題として、「研究者は、異なる股関節屈曲位での股関節外転種目を検討すべきである」と明記しています。
出典:Krause Neto W, et al. Front Physiol, 2025年(原典 )。資金提供なし、利益相反なしと明記されています。
このレビューが対象としたのは大臀筋のみで、中臀筋・小臀筋を測定した研究は組み入れられていません。 著者は限界として、組み入れた研究の種目の記述が不完全で再現性が損なわれること、多くの研究がランダム化の方法を報告していないこと、可動範囲のばらつきが大きいこと、サンプルサイズの計算が行われていないことを挙げています。
既に研究が存在するなら、レビューの著者が「今後検討すべき」と書く可能性は低いと考えられます。 ただしこれは、レビューの検索範囲や採用基準の外に該当研究があった可能性を排除するものではありません。
5-1. 最も近い研究の結果
臀筋を狙った12週間の介入で臀筋の体積をMRIで測った研究はあります。ただし対象は股関節の変形性関節症の患者27名で、健常のトレーニング実施者ではありません。
結果は、小臀筋の体積のみが増加(統合平均差 0.06 cm³/kg、95%CI 0.01〜0.11、時間×群 P=0.025)し、中臀筋・大臀筋・大腿筋膜張筋の体積は有意に変化しませんでした。 また筋力の改善は、比較用の見せかけの介入を行った群でも同程度でした。
出典:Rostron ZPJ, et al. BMC Musculoskelet Disord, 2022年(PMID: 36309690、全文 )。利益相反なしと明記されています。 資金はArthritis Australia ほか。
なお、この研究の介入内容にアブダクションマシンは含まれていません(歩行の再教育、スプリットスクワット・ブリッジ、等尺性の運動、両脚スクワット、デッドリフト)。
著者は限界として、他の臀筋でも中程度から大きい効果量を伴う有意でない変化があり、サンプルが大きければ一貫した所見だった可能性があること、より重症の股関節変形性関節症の人には一般化できない可能性があること、選択バイアスの可能性を挙げています。
5-2. 「お尻が1cm上がると脚が3cm長く見える」について
上位記事のうち2件が、この趣旨の数値を書いていました。
| 記事 | 書き方 |
| A社 | 「お尻が1センチ上がると、脚が3センチ長く見える」 |
| B社 | 「お尻が1cm垂れると、脚が3cm短く見える」 |
同じ主張が上下逆の表現で流通しており、どちらも出典を示していません。
当サイトでもこの数値の出所を確認できませんでした。 測定方法(何を「1cm上がった」とするのか、「3cm長く見える」を誰がどう評価したのか)が示された資料に到達できていません。
5-3. その他、根拠を確認できなかった訴求
上位記事には次の訴求もありましたが、いずれも根拠が示されていませんでした。
- 「基礎代謝が上がる」(1件)
- 「XO脚が改善する」「骨の並びが修正される」(1件)
根拠が確認できない以上、この記事ではこれらを効果として書きません。
6. 「中臀筋が弱いと膝を痛める」について
この説明は、前向き研究では支持されていません。
前向き研究のみを集めた系統的レビュー・メタ解析(18研究・4,818名、うち483名が膝蓋大腿痛を発症)は、次のように結論しています。
「中程度のエビデンスが、股関節の筋力低下は将来の膝蓋大腿痛のリスク因子ではないことを示す」(統合SMDの範囲 −0.09〜−0.20)
さらに、方向が逆の結果も報告されています。
「青年期では、股関節外転筋力が高いことが将来の膝蓋大腿痛のリスク因子であるという中程度のエビデンスがある」(SMD 0.71、95%CI 0.39〜1.04)
著者は「より妥当な説明は身体活動量の高さである」「青年期のコホートにおいて、予防手段として筋力を高めることの役割には疑問を呈するのが妥当である」と記載しています。
出典:Neal BS, et al. Br J Sports Med, 2019年(PMID: 30242107、PubMed )。利益相反なしと明記されています。
著者は限界として、研究の質を評価するツールの選び方によって結果が変わりうること、検索したデータベースが3つのみであること、単変量の関連しか見ていないことを挙げています。
6-1. 原因と結果が逆の可能性
別の系統的レビュー・メタ解析は、横断研究(ある時点で痛みのある人とない人を比べる)では膝蓋大腿痛のある人の股関節筋力が低い一方、前向き研究(先に筋力を測り、その後の発症を追う)では関連がないという食い違いを指摘したうえで、次のように述べています。
「股関節筋力の低下は、膝蓋大腿痛の原因というより結果である可能性がある」
出典:Rathleff MS, et al. Br J Sports Med, 48(14), 1088, 2014年(PMID: 24687010)。抄録のみの確認で、対象研究数・効果量・著者が明記した限界・利益相反・資金源は確認できませんでした。
同趣旨の記述は他の原典にもあります。 思春期の女子バスケットボール選手255名(12.7±0.9歳)を追跡した前向き研究は、論文のタイトル自体が「その後に膝蓋大腿痛を発症するアスリートでは股関節筋力が高い」です。発症した38名は、発症しなかった選手より股関節外転筋力が高いという結果でした(左右とも p<.05。膝の伸展・屈曲筋力には差なし)。著者は「より大きな股関節外転筋力は、動的な膝の外反に伴う外転筋の遠心性負荷が増えた結果として生じた症状である可能性がある」と述べています。
出典:Herbst KA, et al. Am J Sports Med, 2015年(PMC4769640の全文 )。資金は米国立衛生研究所(NIH/NIAMS)およびNational Football League Charities。
この研究の対象は思春期の女子選手であり、成人の一般トレーニング実施者に直接あてはまるとは限りません。また観察研究であり、筋力を上げる介入を行った試験ではありません。著者が明記した限界については、当サイトでは確認できていません。
6-2. 予防効果を示した試験について
股関節外転筋のトレーニング単独で、症状のない人の発症率を下げたことを示したランダム化比較試験を、当サイトでは確認できませんでした。
関連する試験はいずれも複合プログラムか、効果が示されなかったものです。
| 試験 | 対象・期間 | 介入 | 測ったもの | 結果 |
| Leppänen 2024 | 初心者ランナー325名、24週 | 股関節+体幹の複合プログラム | ランニング関連の傷害 | ハザード比 0.66(95%CI 0.45〜0.97)。外転単独の効果は分離できません |
| Toresdahl 2020 | マラソン初出場ランナー720名、12週 | 体幹・股関節外転・大腿四頭筋を週3回10分 | 重大な傷害の発生率 | 7.1% vs 7.3%、相対リスク 0.97(95%CI 0.57〜1.63)、P=0.90(減りませんでした) |
| Willy & Davis 2011 | 健常女性20名、6週×週3回 | 股関節外転・外旋の強化 | ランニング中の股関節・膝の動き | 筋力は有意に増加(P<.005)したが「ランニング中の股関節・膝の動きに有意な変化はなかった」 |
出典:Leppänen M, et al. Br J Sports Med, 2024年(PMID: 38724071、PubMed )/Toresdahl BG, et al. Sports Health, 2020年(PMID: 31642726、全文 )/Willy RW, Davis IS. J Orthop Sports Phys Ther, 2011年(PMID: 21765220、PubMed )
3試験とも抄録のみの確認で、著者が明記した限界は確認できていません。 また測っているものが3試験で異なります(傷害の発生/重大な傷害の発生率/走行中の動き)。Toresdahl 2020 では、参加者の実施頻度が平均2.0±1.2回/週でした。
この記事では、この種目を「膝や腰の怪我の予防になる」とは書きません。 既に痛みがある場合は、トレーニングで解決しようとせず整形外科を受診してください。
7. やり方

上位5記事が一致していた点と、割れていた点を分けて示します。
7-1. セットアップ
- シートに深く座り、背中を丸めずに座ります(上位5件すべてが「背中を丸めない」「姿勢を正す」を挙げています)
- パッドを太ももの外側に当てます(膝の上ではなく、太ももの外側)
- つま先を正面に向けます(上位2件が言及。外や内に向けない)
背もたれに寄りかかるか、股関節から上体を前に倒すかは、狙いによって変わります。 太ももの外側ばかり張る場合の調整については4-2を参照してください。いずれの場合も、背中を丸めないという点は共通です。
7-2. 動作
- 股関節から動かして、脚を外に開きます
- 開いたところで止めます
- 閉じきる手前で止め、負荷を抜きません(上位3件が一致。「閉じるギリギリで止める」)
- 反動を使いません(上位3件が一致)
上位5記事のうち、「閉じきらない」は3件、「反動を使わない」は3件、「股関節から動かす」は2件が挙げていました。全記事が一致しているわけではなく、また研究で効果が確認された手順でもありません。
呼吸については、上位2件が「開くとき吐く/閉じるとき吸う」で一致していました。
上位5件のうち3件が「反動を使わない」としている一方、1件は「開く時は素早く、戻す時はゆっくり」と、速さについて別のことを書いています。
どちらの記事も根拠を示していません。 この種目の動作速度を比較した資料に当サイトは到達できておらず、判断材料がないため、この記事では多数派の「反動を使わず、コントロールして動かす」を採ります。
7-3. 可動範囲
開く側について、柔軟性を超えて開かないよう注意した記事は上位5件中1件のみでした。
股関節の外転可動域には個人差があります。開ける範囲を超えてパッド位置を設定すれば、骨盤を傾けて脚を開く動きで補うことになります。 マシンの設定は、骨盤を傾けずに開ける範囲に合わせてください。
8. 回数・セット数・頻度・重量
この種目を対象に回数・セット数・頻度・重量を比較した研究を、当サイトでは確認できていません。 以下はトレーニング全体または筋群単位で示された一般的な指針です。
| 項目 | 目安 | 出典 |
| 回数 | Novice(初心者)で8〜12RM | ACSM 2009年版 |
| セット数 | 筋群あたり週約10セットが筋肥大の目安 | ACSM 2026年版 |
| 頻度 | 週2〜3回(Novice、トレーニング全体として) | ACSM 2009年版 |
| 負荷の漸増 | 目標回数より1〜2回多くできるようになったら2〜10%増やす | ACSM 2009年版 |
| セット間の休憩 | 筋力3〜5分/筋肥大1〜2分/筋持久力90秒未満 | ACSM 2009年版 |
出典:American College of Sports Medicine. Med Sci Sports Exerc, 41(3), 687-708, 2009年/ACSM Position Stand(Currier BS ほか、統括 Phillips SM)Med Sci Sports Exerc, 58(4), 2026年(PMC12965823の全文 )
1回あたりのセット数について。 上の「筋群あたり週約10セット」は週の合計です。上位5記事のうち4件は3セットまたは2〜3セットとしていました。 週2回行うなら1回あたり3セット前後が、この週合計の目安に収まります。ただしこれは記事の傾向と週合計の指針から逆算した数字で、この種目のセット数を検証した研究ではありません。
ACSM 2009年版・2026年版のポジションスタンドは、健常成人を対象とした研究群をまとめて作られた、トレーニング全体に対する指針です。 特定の種目について最適な重量・回数・頻度を示したものではありません。
したがって上の数値は、ヒップアブダクションという種目に対して検証されたものではなく、出発点として使うものです。 実際の重量は、8-1に書いた原則で自分で決めてください。
上位5記事のうち、頻度(週何回)を書いていた記事は0件でした。
8-1. 重量について
上位5記事のうち、重量の目安を書いていたのは1件のみです。
その1件は「初心者:女性20kg/男性35kg」としていました。ただし当サイトでは、この数値の根拠を確認できませんでした。
同じマシンで内転(脚を閉じる)を扱う記事では、大手フィットネスクラブが「女性10kg/男性15kg」を示しています。上の外転側の数値は、その2倍です。
どちらの記事も、この数値の根拠を示していません。 同じ1台のマシンで外転が内転の2倍の重量になるという主張を裏づける資料に、当サイトは到達できませんでした。
したがって、他サイトの数値をそのまま目安にすることは推奨しません。 上の表の原則(8〜12回できる重量から始め、1〜2回多くできるようになったら2〜10%増やす)に従って自分で決めてください。
この種目では、骨盤を傾けずに動作できるかどうかを重量の上限の目安にしてください(4-2)。なお、重量と代償動作の関係を測定した研究は当サイトでは確認できていません。
9. アダクター(内転)との使い分け
同じマシンを内外に使い分けるにもかかわらず、「なぜ両方やるのか」を説明した上位記事は0件でした。
| 動き | 主に働く筋 | |
| アブダクション(この記事) | 脚を外に開く | 中臀筋・小臀筋 |
| アダクション | 脚を内に閉じる | 内転筋群 |
「両方やるべきか」について比較した資料を、当サイトでは確認できませんでした。 外転筋と内転筋の筋力比をいくつに保つべきかという基準についても、根拠を確認できていません。
なお内転筋群については、股関節を伸ばす種目で内転筋が増えたという報告があります。 未鍛錬者17名を12週間追跡した研究では、レッグプレスのみが大内転筋の体積を増やしました(+6.2%)。未鍛錬男性17名を10週間追跡した別の研究では、フルスクワットが内転筋群の体積を+6.2±2.6%、ハーフスクワットが+2.7±3.1%増やしています(群間 p=0.026)。ただし後者の著者は、大内転筋・長内転筋・短内転筋の境界を同定できなかったため内転筋群を個別に分けて解析していないと明記しており、この研究から特定の筋を名指しすることはできません。 また、どちらの研究もアダクターマシンによる内転種目と比較したものではありません。「内転種目より伸展種目のほうが優れている」とは言えません。 詳しくはアダクターマシンの記事で扱っています。
出典:Kinoshita M, et al. Med Sci Sports Exerc, 2026年(PMID: 41630124、全文 )/Kubo K, Ikebukuro T, Yata H. Eur J Appl Physiol, 119, 1933-1942, 2019年
それぞれの限界を挙げます。 Kinoshita 2026 は未鍛錬の健常若年成人17名(男性11名・女性6名、23.3±4.0歳)が対象で、著者は「参加者は全員が未鍛錬者であり、レジスタンストレーニング経験者への一般化可能性は不確かである」、また「両種目で股関節の開始角度を90度に標準化したことが、筋肥大の反応に影響した可能性がある」と明記しています。5つの内転筋のうち有意に増えたのは大内転筋のみで、長内転筋・短内転筋・恥骨筋・薄筋はほぼ変化していません。 利益相反なしと明記、資金はヤマハ発動機スポーツ振興財団。
Kubo 2019 は1年以上運動習慣のない健常男性17名が対象で、著者はフルスクワットのほうが筋収縮の持続時間が長いこと、機械的仕事量は推定値であること、つま先の外旋角度を指示していないこと、サンプルが小さいことを限界に挙げています。利益相反なしと明記、資金は日本学術振興会科研費。
いずれもこのマシンを使った研究ではありません。
10. よくある質問
- 「ピーマン尻」はこの種目で改善しますか?
-
改善を示した研究を、当サイトでは確認できませんでした。 「ピーマン尻」は骨盤の側部がへこんで見える状態を指す俗称で、医学用語ではありません。中臀筋・小臀筋の量が関係するという説明が流通していますが、その関係を測定した研究も、トレーニングでこの状態が変わることを示した研究も、当サイトでは確認できていません。 そもそも、この種目を続けて臀部の形が変わったことを画像で確認した研究自体が1件も見つかっていません(5章)。したがって、この種目で改善するとも、しないとも、当サイトでは言えません。
- お尻ではなく太ももの外側ばかり張ります。
-
大腿筋膜張筋が働いている可能性があります。 この筋も股関節を外転させる働きを持ちます。研究上は股関節の屈曲角度を増やすと大腿筋膜張筋の活動が減るという報告がありますが、それは背臥位・等尺性の実験で、マシンでの検証ではありません(4章)。試せることとしては、重量を下げ、骨盤を傾けずに動作できる範囲で行うことです。ただし、これで解決することを示した資料は確認できていません。
- 週に何回やっていいですか?
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この種目を対象に頻度を比較した研究を、当サイトでは確認できていません。 ACSM 2009年版は初心者に週2〜3回を示していますが、これはトレーニング全体に対する推奨で、種目ごとの上限ではありません。なお上位5記事のうち、頻度を書いていた記事は0件でした。
- 重量はどれくらいから始めればいいですか?
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この種目を対象に重量を検証した研究は確認できていません。 ACSM 2009年版が初心者向けに示している8〜12RM(8〜12回で限界になる重量)が出発点になりますが、これはトレーニング全体に対する一般的な指針で、この種目固有の基準ではありません(8章)。上位記事で重量を書いていたのは1件のみで、その数値の根拠も確認できませんでした(8-1)。骨盤を傾けずに動作できるかどうかを、重量の上限の目安にしてください。
- 中臀筋が発達しすぎて、お尻が横に広く見えませんか?
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股関節外転トレーニングによる臀部の形態変化を測定した研究がないため、当サイトでは答えられません(5章)。形が変わることを示した研究がない以上、「広く見えるようになる」という予測にも根拠がありません。
- マシンがない場合、代わりになる種目はありますか?
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側臥位(横向きに寝て脚を上げる)・クラムシェル・マシンの3種目間で、中臀筋の活動に統計的な有意差は確認されなかったという報告があります(男性11名、2-1)。これは「3種目が同等である」ことを確認した試験ではありません。ただし側臥位は大腿筋膜張筋の活動がマシンより高かったとされています。 また未鍛錬女性16名を対象とした別の研究では、立位のゴムバンドのほうが中臀筋の活動が高いという結果でした(3-1)。いずれも単回の筋電図測定で、長期的にどちらが効果的かを示したものではありません。
- 左右で開きやすさが違います。
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左右差について扱った資料を、当サイトでは確認できませんでした。 痛みを伴う場合は整形外科を受診してください。
11. まとめ
- この種目を続けて臀部の形が変わったことを画像で確認した研究を、1件も確認できませんでした。 上位5記事すべてが「美尻」を効果に挙げていますが、根拠を示した記事は0件です
- 「マシンが中臀筋に最も効く」を支える根拠を確認できませんでした。 根拠として使われうる論文の本文は「3種目間で中臀筋の活動に差はなかった」と書いており、マシンが他の2種目を上回ったのは中臀筋と大腿筋膜張筋の「比」という別の指標です
- 太ももの外側が張るときは、大腿筋膜張筋が働いている可能性があります。 股関節の屈曲角度を増やすと大腿筋膜張筋の活動が減るという報告がありますが、マシンでの検証ではありません
- 股関節の屈曲角度で有意に変わったのは大臀筋上部と大腿筋膜張筋で、中臀筋は変わりませんでした
- 「中臀筋が弱いと膝を痛める」は前向き研究では支持されておらず、青年期では逆向きの結果が報告されています
- この種目を対象に回数・セット数・頻度・重量を比較した研究は確認できていません。 8〜12回できる重量から始め、骨盤を傾けずに動作できる範囲で行ってください
同じマシンの内転側はアダクターマシンの記事、大臀筋を主目的にするならヒップスラスト、脚全体ならレッグプレス・レッグエクステンション・レッグカールの記事があります。ジム全体のメニューはジムの筋トレメニュー、マシンの種類はトレーニングマシンの種類一覧にまとめています。
本記事で「上位記事」と書いている箇所は、2026年8月14日時点でGoogle検索(日本)の上位に表示されていた記事を指します。検索結果は日々変動するため、現在の表示順とは異なる場合があります。
痛みがある場合、既往がある場合、持病がある場合は、トレーニングの前に医師にご相談ください。 この記事は診断・治療を目的としたものではありません。
