ペックフライで最初につまずくのは、器具の呼び方です。
「ペックフライ」「バタフライ」「ペックデック」「チェストフライ」が同じものを指すのかどうか、上位記事のあいだで説明が食い違っています。 なかには同じ運営元が「同一の器具」と書いた記事と「別物」と書いた記事の両方を公開しているケースもありました(2026年8月14日時点)。
そしてシートやハンドルの高さの指示は、「肩の高さ」「胸の高さ」「バストトップと一直線」「肩より下」の4通りに割れています。
1. 呼び方が揃っていません
1-1. 検索されている語には大きな差があります
同じ器具を指す語でも、検索されている量が大きく違います。
| 語 | 月間検索数 |
| ペックフライ | 11,000 |
| バタフライ 筋トレ | 40 |
出典:Ahrefs(2026年8月14日時点、日本)
275倍の差があります。 「バタフライマシン」という呼び方は現場では通じますが、検索する人はほとんどこの語を使っていません。
1-2. 上位記事のあいだでも説明が食い違っています
2026年8月14日に取得できた上位8記事を確認したところ、次の状態でした。
- 同じ運営元が「ペックフライ=バタフライ(同一)」と書いた記事と、「ペックフライとバタフライは別物」と書いた記事の両方を公開している
- そのうち「同一」と書いた側が、Google のAI による概要に引用されている
- 「ペクトラルフライ」「ペックデック」「チェストフライ」との関係を整理した記事は、8件中0件
当サイトでは、これらの呼称の定義を定めた資料を確認できていません。
1-3. 実務上の使い分け
構造として区別できるのは、肘を当てるパッドがあるか、手で握るハンドルかという点です。
| 呼び方 | 実務上指すことが多いもの |
| ペックデック | 肘を当てるパッド式 |
| ペックフライ/バタフライ | ハンドルを握る式 |
| チェストフライ | 上記の総称として使われることがある |
この区別も実務上のもので、定義を定めた資料は確認できていません。 施設で使う際は、掲示されているマシン名を確認してください。
なおケーブルを使うフライについては、ケーブルフライの記事で扱っています。
2. この種目で何が変わるのか
2-1. 1セットと3セットで、12週間後の結果に差がありませんでした
ペックデック(マシンフライ)だけで12週間トレーニングし、片側を1セット、反対側を3セットに割り付けた研究があります。
未訓練の若年男性15名(24.1±3.1歳)が対象で、20回から8回RMまで負荷を上げていく形で、いずれも限界まで行っています。Bモード超音波で大胸筋の鎖骨部と胸骨部の筋厚を、1RMで最大筋力を測定しました。
| 測定項目 | 1セット | 3セット |
| 大胸筋 鎖骨部の筋厚 | +17% | +18% |
| 大胸筋 胸骨部の筋厚 | +21% | +21% |
| 最大筋力(1RM) | +46% | +43% |
12週間後の増加は、条件間で同程度でした。
著者の結論は次のとおりです。
レジスタンストレーニングのボリューム(1セット vs 3セット)は筋サイズ・筋力の変化に影響せず、未訓練男性におけるペックデック後の部位別筋肥大を支持しない
出典:Pinto MD, et al. J Strength Cond Res, 39(5), 523-530, 2025年(PMID: 40266636)
- 対象は未訓練の若年男性15名です。 経験者に同じ結果になるかは分かりません
- 期間は12週間、種目はペックデックのみです
- 同一の人の左右で条件を分ける設計のため、個人差の影響を受けにくい形になっています
- 「部位別筋肥大を支持しない」というのは、鎖骨部と胸骨部で反応が違うとは言えなかったという意味です
この研究から言えるのは、「未訓練の段階では、セット数を3倍にしても12週間後の結果は変わらなかった」というところまでです。
2-2. フライ動作とプレス動作の比較
バーベルベンチプレス・ダンベルベンチプレス・ダンベルフライを比較した研究(大学生年代の男女12名、6RM負荷で3反復)では、大胸筋と三角筋前部の運動単位活動に、3種目間で有意差が認められませんでした。
有意差があったのは活動の相対的な持続時間のみで、ダンベルフライはベンチプレス2種より有意に短いという結果でした。著者は「ダンベルフライは補助種目として適しており、バーベルとダンベルのベンチプレスはプログラム内で互換的に用いうる」と結論しています。
出典:Welsch EA, Bird M, Mayhew JL. J Strength Cond Res, 19(2), 449-452, 2005年(PMID: 15903389。当サイトでは抄録のみ確認)
ただしこれはダンベルフライであり、マシンでのペックフライではありません。 ペックフライとベンチプレスの筋活動を直接比較した研究を、当サイトでは確認できていません。 またこの結果は「フライのほうが大胸筋に効く」の根拠にもなりません(有意差がないためです)。
2-3. よく見る数値について
「ペックデックはベンチプレスの98%の筋活動を生む」という数値が広く流通しています。
この数値の出所を確認したところ、ACE(American Council on Exercise)が委託した調査であり、査読を経た論文ではありませんでした。 当サイトではこの数値を使いません。
2-4. 「大胸筋の内側に効く」という説明について
「ベンチプレスより胸の内側の刺激が得やすい」という説明を見かけますが、根拠を示した記事は上位8件中0件でした(2026年8月14日時点)。
当サイトでも、フライ動作が大胸筋の特定の部位を選択的に狙えることを示した資料を確認できていません。
なお大胸筋の部位別の反応については、ベンチの角度を変えた研究が複数ありますが、そこでも結果が一致していません。詳しくはインクラインプレスの記事で扱っています。
3. シートとハンドルの高さ

3-1. 上位記事の指示が4通りに割れています
2026年8月14日に取得できた上位8記事のうち、高さの合わせ方に言及していたものの指示です。
| 記載されている指示 |
| 肩の高さ |
| 胸の高さ |
| バストトップと一直線 |
| 肩より下 |
4通りに割れています。しかもAIによる概要に引用されている3件だけで、3通りが揃っていました。
当サイトでは、ペックフライのシート高さと筋活動・筋肥大の関係を測定した資料を確認できていません。 よって「この高さが正しい」と書くことはしません。
3-2. 実務上の合わせ方
ハンドルを握ったときに、肘が肩よりも大きく上がらない位置を探す方法が実務上採られています。肘が肩より高く上がると、肩関節が外転・外旋した位置で負荷を受けることになります。
ただしこの位置と、肩への負担や筋活動の関係を測定した資料を、当サイトでは確認できていません。 施設の掲示または取扱説明書に指定があれば、そちらを優先してください。
3-3. 肩甲骨の扱い
上位8記事のうち、4件が「肩甲骨を寄せる」、1件が「寄せすぎない」と書いていました。理由を説明した記事は0件でした。
当サイトでは、ペックフライにおける肩甲骨の位置と筋活動の関係を測定した資料を確認できていません。
なおシーテッドローについては、肩甲骨を固定するかどうかを高密度筋電図で比較した研究があります(引く局面で差が出たのは後部三角筋のみ)。詳しくはシーテッドローの記事を参照してください。ただしこれは引く動作の研究であり、フライ動作には適用できません。
4. 重量と回数の決め方

4-1. 上位記事の対応が分かれています
2026年8月14日に取得できた上位8記事のうち、重量の数値を示していたのは2記事のみでした。残り6記事は数値を出していません。
さらにそのうち1件は、重量の数値を示さず、「効かない原因は重量ではなく動作の軌道である」と説明していました。
当サイトでは、ペックフライの適正重量を体重や性別から算出する根拠を確認できていません。 よって数値を書きません。
4-2. 回数から決めます
アメリカスポーツ医学会(ACSM)2009年版のポジションスタンドは、経験レベル別に次を示しています。
| 経験レベル | 負荷 | 頻度 |
| Novice(未訓練、または数年間トレーニングしていない) | 8〜12RM | 週2〜3日 |
| Intermediate(継続的な経験が約6か月) | 1〜12RMを周期化(筋肥大は6〜12RM域を重視) | 週3〜4日 |
| Advanced(数年の経験) | 1〜12RMを周期化(同上) | 週4〜5日 |
負荷の漸増は「目標回数より1〜2回多くできるようになったら、負荷を2〜10%増やす」という基準です。
出典:American College of Sports Medicine. Med Sci Sports Exerc, 41(3), 687-708, 2009年(PMID: 19204579、PubMed )
この頻度はトレーニング全体に対する推奨であり、ペックフライという種目を週に何回行うかを示したものではありません。
ウェイトスタック式のマシンは刻みが決まっているため、2〜10%をそのまま適用できない場合があります。 その場合は1段階上げたあとに回数が目標域へ収まるかを見てください。
4-3. 重すぎるときに出るもの
- 背中が背もたれから離れ、上体が前へ出る
- 肘が下がって、押す動作(プレス)に近づく
- 可動域が浅くなる(腕を開く範囲が狭くなる)
- 戻す局面が速く、重りが落ちる音がする
これらは実務上「重すぎる」と判断される目安であり、重量とこれらの現象の関係を測定した資料を当サイトでは確認できていません。
5. 動作

| 局面 | 動き |
| 閉じる | 息を吐きながら、肘の角度を保ったまま腕を体の前で合わせます |
| 開く | 息を吸いながら戻します。重りを落とさない速さが目安になります |
呼吸のタイミングと戻す速さは、いずれも実務上広く採られている手順であり、これらを比較検証した研究を当サイトでは確認できていません。
5-1. どこまで開くか
開く範囲について、ペックフライを対象に可動域を比較した研究を、当サイトでは確認できていません。
上位記事のなかには「肩関節に負荷が集中する」と書いているものがありましたが、可動域が狭い人への具体的な対応を示した記事は8件中0件でした。
肩に痛みや違和感がある場合、既往がある場合は、自己判断で可動域を広げず、医療機関または主治医への確認が必要な場合があります。
6. 他の胸の種目との関係
6-1. プレス系との違い
フライ動作は、肘の角度を保ったまま腕を閉じる動作です。 肘を曲げ伸ばしするプレス動作とは、動く関節が違います。
この違いから実務上言われるのは、プレス系では上腕三頭筋が関与するのに対し、フライ系では関与が小さいという点です。
ただしペックフライとプレス系で上腕三頭筋の関与を直接比較した資料を、当サイトでは確認できていません。
参考として、フラットベンチプレスの前にフライ動作などで事前疲労させる方法を検証した研究があります。レジスタンストレーニング経験のあるアスリート8名を対象に、95%1RMのベンチプレス前後で筋電図を比較したものです。
結果として、事前疲労後に有意に活動が増えたのは上腕三頭筋のみ(求心相ピークが114.77±19.4% → 147.76±18.6%、p=0.004)で、大胸筋と三角筋前部については有意差が示されませんでした。
著者は「コーチは、事前疲労プロトコルが大胸筋や三角筋前部の活動・疲労を高めることを期待すべきではない」と結論しています。
出典:Gołaś A, et al. J Strength Cond Res, 31(7), 1919-1924, 2017年(PMID: 27984499。当サイトでは抄録のみ確認、n=8)
つまり「フライを先にやると、続くプレスで大胸筋がより働く」という説明は、この研究では支持されていません。
6-2. 種目の順序
ACSM 2009年版は、多関節種目を単関節種目より先に行うという順序を推奨しています。ペックフライは単関節種目にあたります。
ただしこれはトレーニング全体の構成に対する推奨であり、ペックフライを対象に順序を比較した研究は当サイトでは確認できていません。
6-3. ダンベルフライとの違い
ダンベルフライについては専用の記事があります。
マシンとダンベルでフライ動作を比較した研究を、当サイトでは確認できていません。 構造として違うのは、マシンでは軌道が固定されている点です。ただしこの違いが結果に与える影響を測定した資料も確認できていません。
7. セット間の休憩
ACSM 2009年版は目的別に、筋力3〜5分/筋肥大1〜2分/局所筋持久力90秒未満を示しています。系統的レビュー(23研究・計491名)では、鍛錬者が筋力向上を最大化するには2分超、未訓練者は60〜120秒で十分と思われるとされています。ただしこれは系統的レビューでありメタ解析ではありません。
出典:Grgic J, et al. Sports Med, 48(1), 137-151, 2018年(PMID: 28933024)
ペックフライを対象に休憩時間を比較した研究は当サイトでは確認できていません。 なお上位8記事のうち、セット間の休憩に言及していた記事は0件でした。
本記事で「上位記事」と書いている箇所は、2026年8月14日時点でGoogle検索(日本)の上位に表示されていた記事を指します。検索結果は日々変動するため、現在の表示順とは異なる場合があります。
8. よくある質問
- ペックフライとバタフライは同じ器具ですか?
-
これらの呼称の定義を定めた資料を、当サイトでは確認できていません。 上位記事のあいだでも説明が食い違っており、同じ運営元が「同一」と「別物」の逆の記事を公開しているケースもありました。実務上は、肘を当てるパッド式を「ペックデック」、ハンドルを握る式を「ペックフライ/バタフライ」と呼び分けることが多いですが、施設で使う際は掲示されているマシン名を確認してください(1章)。
- シートの高さはどう合わせればいいですか?
-
上位記事の指示が「肩の高さ」「胸の高さ」「バストトップと一直線」「肩より下」の4通りに割れています。 当サイトでは、シート高さと筋活動・筋肥大の関係を測定した資料を確認できていません。 実務上は、ハンドルを握ったときに肘が肩より大きく上がらない位置を探す方法が採られていますが、この位置の妥当性を検証した資料も確認できていません(3章)。
- 肩甲骨は寄せたほうがいいですか?
-
ペックフライにおける肩甲骨の位置と筋活動の関係を測定した資料を、当サイトでは確認できていません。 上位8記事のうち4件が「寄せる」、1件が「寄せすぎない」と書いており、理由を説明した記事は0件でした。
- 何セットやればいいですか?
-
未訓練の若年男性15名を12週間追跡した研究では、1セットと3セットで大胸筋の筋厚(鎖骨部+17%/+18%、胸骨部+21%/+21%)にも最大筋力(+46%/+43%)にも差がありませんでした(Pinto 2025、ペックデックのみのプログラム)。ただし対象は未訓練者で、期間は12週間です。 経験者に同じ結果になるかは分かりません(2-1)。
- 重量は何キロから始めればいいですか?
-
当サイトでは、体重や性別から適正重量を算出する根拠を確認できていません。 上位8記事のうち重量の数値を示していたのは2記事のみでした。数値を示していない記事のなかには、「効かない原因は重量ではなく動作の軌道である」と説明しているものもありました。8〜12回で限界が来る重量を軽い側から探してください(4章)。
- ベンチプレスの98%の筋活動があると聞きました。
-
この数値の出所は、ACE(American Council on Exercise)が委託した調査であり、査読を経た論文ではありませんでした。当サイトではこの数値を使いません。 なおペックフライとベンチプレスの筋活動を直接比較した研究を、当サイトでは確認できていません(2-3)。
- 大胸筋の内側に効きますか?
-
フライ動作が大胸筋の特定の部位を選択的に狙えることを示した資料を、当サイトでは確認できていません。 上位8記事のうち、この説明の根拠を示した記事は0件でした。
- ベンチプレスをやっていれば必要ないですか?
-
どちらを選ぶべきかを示す資料を確認できていません。 動作の構造として違うのは、フライでは肘の角度を保つのに対し、プレスでは肘を曲げ伸ばしする点です。ベンチプレスの前にフライ動作を行う「事前疲労」を検証した研究では、有意に活動が増えたのは上腕三頭筋のみでした(Gołaś 2017)。
- ダンベルフライとどちらがいいですか?
-
マシンとダンベルでフライ動作を比較した研究を、当サイトでは確認できていません。 なおバーベルベンチプレス・ダンベルベンチプレス・ダンベルフライを比較した研究では、大胸筋の活動に有意差が認められませんでした(Welsch 2005)。ただしこの研究にマシンでのフライは含まれていません。 ダンベルフライについては専用の記事を参照してください。
- 肩が痛くなります。
-
中断してください。上位記事のなかには「肩関節に負荷が集中する」と書いているものがありましたが、可動域が狭い人への具体的な対応を示した記事は8件中0件でした。 当サイトでも、ペックフライと肩の負担の関係を測定した資料を確認できていません。 痛みが続く場合は医療機関への確認が必要な場合があります。
- 週に何回やっていいですか?
-
この種目を対象に頻度を比較した研究は当サイトでは確認できていません。 ACSM 2009年版はNovice(初心者)に週2〜3日を示していますが、これはトレーニング全体に対する推奨で、種目ごとの上限ではありません。
9. まとめ
- 1セットと3セットを12週間比べた研究では、筋厚(鎖骨部+17%/+18%、胸骨部+21%/+21%)も最大筋力(+46%/+43%)も差がありませんでした(未訓練男性15名、ペックデックのみ)。
- 呼び方が揃っていません。 上位記事のあいだで説明が食い違い、同じ運営元が「同一」と「別物」の逆の記事を公開しているケースもありました。検索されている語としては「ペックフライ」が11,000、「バタフライ 筋トレ」が40で275倍の差があります。
- シートの高さの指示が4通りに割れています。 AIによる概要に引用されている3件だけで3通りが揃っていました。当サイトでは、高さと筋活動の関係を測定した資料を確認できていません。
- 「ベンチプレスの98%」という数値は、査読を経ていない調査が出所でした。
- 肩甲骨の扱いについて、上位記事で「寄せる」と「寄せすぎない」が分かれていますが、理由を説明した記事は0件でした。
- 重量は上位8記事のうち2記事しか数値を出していません。
情報を読むときの視点として1点。この種目は、器具の呼び方から高さの合わせ方まで、上位記事のあいだで説明が揃っていません。 そしてそのほとんどに根拠が示されていません。 「こうすべき」と書かれていたら、それが何を測った結果なのかを確認する価値があります。
